汝々艶

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頭の中の絵本シリーズ

第8章
 水月の秘密

安全な車両へ移ると、
水月が静かに口を開いた。

「涼……あなたに話しておかなく
ちゃいけないことがある」

水月は窓に映る自分の
顔を見つめたまま、語り始めた。

・水月はかつて、
生者としてこの列車に乗った
・黒涯に近づいたとき、
魂を守りきれず“半ば死者”になってしまった
・それでも乗客を導くことで、
自分自身も“帰還の可能性”を探している
・水月は、
本当に涼を生者と
して帰そうとしている

「人を助けても、
私自身が生き返る
保証なんてない……でもね、涼。
あなたの切符には、
私が見たこともないほど強い力がある。
たぶんあなたは、
“列車を終わらせる鍵”なんだと思う」

涼は驚き、
言葉を失う。

「俺が……？」

「黒涯に到達すれば、
あなたは選択できる。
生者として帰還するか、
この列車に囚われる魂を解放するか」

その声には、
静かだが深い覚悟があった。

涼の胸が重くなる。

「……水月。
もし俺が帰れたら、君は……？」

水月は微笑んだ。

「私は、行き先を選べない。
でも……涼が帰れれば、それでいい」

胸の奥に痛みが走った。


第9章 
亡者車両の暴走

列車が黒涯に近づくにつれ、
異変が激しくなっていった。

前方車両から、何十もの足音が聞こえる。
うめき声、軋む音、地を引きずる音。

「……来た」

水月が呟くやいなや、
ドアが強く叩かれた。

亡者となった乗客たちが、
黒い霧をまといながら
涼を求めて集まってきている。

「生者ヲ……カエセ……」

「タマシイ……欲シイ……」

ドアの隙間から
黒い手が伸び、
車両内に染み込
むように広がってくる。

「涼、行くわよ！」

水月が涼の手を掴み、
後方車両へ走る。
だが亡者たちの
速度も異常に速い。

追いつかれる――そう思った瞬間。

涼の切符が光り、
彼の足元に淡い道が広がった。
その上を走ると
亡者の手が触れられない。

「これが……切符の力……！」

二人は亡者車両を抜け、
なんとか後方の安全な
車両へたどりついた。

しかし涼は気づいてしまった。
切符は、
確実に力を失いつつある。
黒涯に近づくほど、
光は弱まりつつあった。

「間に合うか……」

涼は胸の奥に
焦りを感じていた。

つづく

当店の強みは
15年以上営業出来ている
老舗の人妻店だからこそ
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黒き終列車
の記録

第7章 虚駅
“帰無里（きなさ）”の罠

列車が次に停まったのは「
帰無里（きなさ）」
という駅だった。
ホームには、
実家にいた頃とまったく同じ
“古い柱時計”が置かれている。

――いや、そんなはずはない。

ホームの向こうには、
涼の故郷の街並みにそっくり
の風景が広がっていた。
色褪せた商店街、
見覚えのある踏切、そして――

「……母さん……？」

霧の中から、
母の姿が現れた。
手を伸ばしながら、
涼に穏やかな笑みを向けている。

「駄目！！」

水月が涼の腕を掴んだ。
だがその力は弱い。

「ここは“虚の帰還”
の駅……生者の記憶を餌に、
魂を引きずり出す場所なの！」

しかし涼は、
自分の中にも揺らぎを感じていた。
帰りたい。
温かい家に戻りたい。
こんな恐ろしく寒い
旅など忘れたい――

その瞬間、
切符がじりじりと
焼けるように熱くなった。

（……俺は……帰りたいのは事実だ。
だけど……本物の母が、
こんな霧の中にいるわけない……）

涼は目を閉じ、
大きく息を吸った。

「母さん……そこにいるのが
偽物だってわかってる」

偽りの母の顔が突然ひび割れ、
笑顔が裂け、
何本もの黒い腕が
涼に伸びかかった。

その刹那、
切符が眩しい光を放ち、
黒い腕を断ち切る。

「――ッ！」

車体が急に揺れ、
列車は帰無里駅から
逃げるように加速した。

涼は震える手を握りしめる。

（ここから先は、
もっと強く自分を保た
なきゃいけない……）

水月は涼の隣で、
小さく微笑んだ。

「……あなた、
強いね」


つづく

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第4章
 旅路の同伴者

次の車両へ移ると、
一人の少女が窓辺に座っていた。
不思議なことに、
この車両だけは、
他よりも少し暖かく感じられた。

「あなた、
普通の世界から来た人でしょ」

涼が驚いて固まると、
少女は淡々と言葉を続けた。

「私は水月。この列車に閉じ込められた
“旅の案内人”よ。
あなたと同じように、
ある日突然乗せられた」

水月は、
列車の正体を語りはじめた。

この列車は“未練を抱いた魂
”を運ぶもの
目的地「黒涯（こくがい）」は、
生者と死者の境界
生者が乗ると、やがて魂を奪われる
ただし、降りずに最終駅まで辿りつけば
「帰還の道」が開く

「だから、どれほど恐ろしくても降りてはだめ。
あなたには……
生きて帰ってほしいの」

その言葉に、
涼の胸に不思議な決意が灯った。

⸻

第5章 
“迴淵”の惨劇

二つ目の駅「迴淵（かいぶち）」
に到着すると、車内の空気
が急激に冷え込んだ。

何人かの乗客が突然目を開き、
一斉に同じ方向
――窓の外を見つめた。
その瞳は深い闇に呑まれた
ように漆黒だった。

ホームでは、
巨大な影のようなものが
ゆっくりと揺らめいている。
沼から生まれた獣のよう
に形が変わり続け、
その中央には口のよう
な裂け目があった。

影が列車に近づくと、
乗客の黒い瞳がいっそう深く染まった。

「だめ、その影は魂を食べる……！」

水月の手が震える。
影が車体を覆いはじめ、
床が黒く染まっていく。

――まずい、
このままでは自分も飲まれる。

と、そのとき。

涼の黒い切符が淡く光り、
影の侵食をはじくよう
に周囲に薄い膜を張った。

「……これは？！」

水月が目を見開く。

「あなた、選ばれた“生者”
の中でも特別なのかもしれない。
その切符には
あなたを守る力がある」

影が苦しむように揺らぎ、
列車は急加速し、迴淵駅を離れた。
涼は荒い息を吐きながら、
それでも手にした切符の温もりにわずかな希望を感じていた。

⸻

第6章 
闇を裂く笛の音

三つ目の停車駅に入る直前、
車内に奇妙な音が響いた。
列車の汽笛とは違う、
どこか人の声に近い笛の音だ。

「この音……
“境界守り”が近い」

水月が警戒するよう
に窓を見つめる。

ホームが見えた瞬間、
涼は息を呑んだ。
そこには、防護服の
ような黒い装束をまとった
“人影”が列車を囲むように立っていた。
彼らの顔は仮面で覆われ
白い紋様がまるで呪符
のように光っている。

『生者、確認……』

仮面越しに、低く響く声。

「まずい……彼ら、あなたを“回収”
しに来たんだわ。
生者がここまで来るのは
本来ありえないことだから」

次の瞬間、
車体に白い紋が刻まれ、
涼の身体が急激に重くなる。

――動けない……！

仮面たちが扉に近づくたび、
魂を引き剥がされるよ
うな痛みが胸に走った。

「涼！ 目を閉じて、
名前を呼ばれないようにして！」

水月の声に必死で従い、耳を塞ぐ。

すると、
どこからか懐かしい声が聞こえた。

――りょう……
帰っておいで……

母の声だ。

だが、涼は知っていた。
こんな場所に、
母がいるはずがない。

「違う……偽物だ……！」

次の瞬間、黒い切符が激しく光り、
白い紋を弾き飛ばした。
仮面の者たちが後ずさる。

『選ばれし切符……！』

列車が急発進し、
仮面たちの姿は闇に消えていった。

涼は座席に崩れ込み、
震える手で切符を握りしめた。

水月が静かに言う。

「涼……あなた、本当に
“黒涯”へ辿りつけるかもしれない。
その切符は、
まだ力を隠している」

列車は、
次の未知なる闇へ向かって走り続けた。

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黒き終列車の記録

第1章　招かれざる切符

大学生の佐久間涼は、
夏休みを利用して山間の温泉地
に向かうため、
夜に出るローカル
線へ乗る予定だった。
しかし駅に着くと、
改札前には見慣れない
制服の駅員が立っていた。

「終列車の切符をお持ちですか？」

差し出された切符は、
黒い地図のような文様が浮かぶ
古びた硬券。
裏には赤字で「午前零時発　
黒涯行」と記されている。

「こんな行き先、
聞いたことないんですが……」

そう言う涼に駅員
は薄く微笑んだ。

「この切符は
“選ばれた方”
にしか現れません」

奇妙な言葉に戸惑いながらも、
涼は静かな旅を求めていた。
好奇心に押され、
彼はその切符を受け取る。

午前零時。
ホームに滑り込んできたのは、
古い蒸気機関車を
思わせる黒塗り
の列車だった。
乗客は少なく、
車内は異様に静まり返っている。
窓の外には濃い霧が漂い、
外灯も届かない闇が広がっていた。

――ここ、本当に日本か？

胸の奥に得体の
しれない寒気が走った。

⸻

第2章　
囁く車内放送

列車が動き出すと、
涼はすぐに異変に気づいた。
スピーカーから聞こえる車内放送が、
どう聞いても“人間の声”ではない。

『……次ノ停車ハ
……サイ……
室……デス……』

途切れ、歪み、
何かが這いずるような声。

乗客を見ると、
誰もその異常に反応せず、
暗がりにうつむいたまま眠っている。
いや――
眠っているのではない。
瞼は閉じているが、
呼吸の気配がない者も混じっていた。

不安が強まった頃、
隣の席の老婆が突然、涼の腕を掴んだ。

「降りちゃいけませんよ。
どこであっても」

老婆の目は真白に濁り、
何も映していない。

涼は言葉を失った。
列車は暗闇の中を疾走し、
外にはいつまでも同じ景色
――森の影が続いている。

第3章　
最初の
停車駅 “犀室”

やがて列車は
最初の駅「犀室（さいむろ）」
に停まった。

しかし駅ホームは崩れた
鳥居や石灯籠が散乱し、
もはや駅とは呼べない
荒れ果てた場所だった。
霧の向こうには、
人影のようなものが
ゆっくり揺れている。

扉が開くと、
まるで手招きするように
冷気が入り込んできた。
降りる乗客はいないはずだった
――そう思った矢先
涼の背後で「ずるり」と音がした。

座っていた青年の体が、
何の前触れもなく立ち上がり、
ぎこちない足取りでホームへ向かっていった。

「ま、待って！
 そこ危ない！」

涼が声をあげた瞬間、
老婆の手が肩を押さえつけた。

「あれはもう、生きてはいませんよ」

青年がホームに降りた瞬間、
霧の中から黒い手が幾本も伸び、
彼を静かに闇へと引きずり込んだ。

列車は扉を閉め、再び闇の中へ。

涼は震える手を握りしめた。

つづく

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タイトル
長靴下が恐怖症の
サンタクロース

後編

第3章 
子どもの願いと涙

そんなある日、
世界中から子どもたちの
願いごとを集めた
手紙を読んでいると、
ある一通がサンタの
目に止まりました。

「サンタさん、
ぼくのおかあさんは入院中です。
来年は元気になりますように。
それをお母さんと一緒に、
この大きな靴下に
入れて飾りたいです。」

サンタは手紙をぎゅっと握りしめました。

「長靴下はこわい。
でも…この子の願いまで
届けられないのはもっとつらい。」

胸の奥が熱くなり、
震えながらも覚悟を決めました。


第4章 
恐怖との対決

クリスマスの夜。
問題の超ビッグ長靴下の家へ。

玄関には、
子どもが作った大きな
赤い靴下がぶら下がっています。

サンタは深呼吸して近づきます。
しかし、足がすくみ、心臓はドキドキ。

「こわい…でもやるんだ…！」

その瞬間、
長靴下の縁についていた
小さな鈴が
チリン…
と鳴りました。

なぜかそれは「がんばって」
と言っているように聞こえたのです。

サンタはそっと手を伸ばし、
怖かった長靴下を――
ついに触りました。

中は空っぽ。
何も怖いことは起きません。

サンタはほっと息をつき、
子どもの願いとプレゼント
をやさしく入れました。



第5章
 克服と新しいクリスマス

その家を出るころ、
サンタの胸には温かな
気持ちが広がっていました。

「長靴下は、
子どもたちの夢を受け止める
袋だったんだな…
こわがる必要なんてなかったんだ。」

それからサンタは
長靴下を見るたびに、
あの願いの手紙と、
母親のために頑張った子
どもの気持ちを思い出します。

翌年、小人たちが新しい
企画の相談に来たとき、
サンタはこう言いました。

「もっと大きな
長靴下でも大丈夫だよ。
だって、
夢は大きいほうがいいだろう？」

こうして、
長靴下がこわかった
サンタクロースは、
子どもたちの願いの力で
恐怖を乗り越えることが
できたのです。

おわり

『月に数回しか働けない…』
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