王宮・地下玉座の間。
血の気が引いたような静けさの中に、ただ一人、男が立っていた。
“本物”のIくん——その手には、漆黒と蒼を基調とした異形の剣が握られていた。
Iくん「ようやく来たな、カンタ王。」
玉座の間へと足を踏み入れたカンタ王は、静かに目を細めた。
だが、すぐにその視線はIくんの手元に釘付けになる。
カンタ王「……それは……!」
目に映るのは、神秘的な光を宿した剣。
蒼と銀の冷たい輝きが、不気味なほどに静かだ。
刃の中央には月面のような文様が浮かび、脈を打つ演算核がその中心で静かに鼓動していた。
カンタ王「まさか……いや、あり得ん……その剣は、この国の地下神殿に封印されたはず……!」
目を見開くカンタ王。
彼の記憶にある伝承が、現実として眼前に甦る。
Iくん「そう。“フェイズ・シフトバイブレード”……かつてこの国が恐れ、封じた禁忌の刃。存在すら禁じられた、未来観測の武器。だが……俺が引き継いだ。」
カンタ王「あの剣は王家の未来を読みすぎた……支配者すら凌駕する精度で、王政を否定しかねなかった。ゆえに、封印されたはずだ……!」
Iくん「“王”に都合の悪い真実は、いつも“封印”される運命だ。」
Iくんは静かに、バイブレードを掲げる。
その刃は月のように沈黙し、しかし、すべてを見通す眼差しを持っていた。
Iくん「こいつは“月”。静かに、そして確実に満ちていく知性の象徴……闇を照らすことなく、すべてを見下ろす観測者としての剣。」
カンタ王「……ならば、トラカワの持つバイブレードは“太陽”か。」
Iくん「ああ。炎のような意志を持ち、爆発的なエネルギーで戦局を打ち破る力。“照らす者”と“見下ろす者”。対になる二振り……そのうちの一つが、今ここにある。」
王の瞳が鋭く細まる。
バイブレードという名を冠しながら、それはもはやただの武器ではない。
Iくん「月の剣は、観測と制御、そして未来予測を内包する。敵の動きを読み取り、戦闘中に“最適解”を導き続ける存在……それがこいつだ。」
カンタ王「未来を読む刃、か……」
王はゆっくりと、自らの剣を抜く。
それは液体のような光沢を持った刃——
『極液剣(ごくえきけん)』。
カンタ王「だが、未来を読むだけでは勝てん。滑り、崩れ、誤差を生む……この極液剣は、運命の摩擦すら狂わせる。」
極液剣の刃が滴るように揺れながら形を変え、床に広がる。
それはまるで意志を持つ粘液、未来そのものを歪ませる毒。
その時だった——
ギュオォン……!
Iくんの手の中で、フェイズ・シフトバイブレードが一閃した。
まるで夜空を切り裂く流星のように、蒼い残光を引きながら宙をなぞる。
Iくん「観測記録、再現。」
演算核が脈打ち、床に魔法陣が展開される。
その中心から、蒼い霞のように“彼ら”が浮かび上がった。
次々に姿を成す、かつての“クローンIくん”たち。
全てが“本物”を模した影でありながら、過去の戦いの蓄積によって強化された擬似個体群。
カンタ王「クローンを……バイブレードから生成しただと!?」
Iくん「これは記憶の再投影じゃない。うん…“観測した戦闘記録”そのものから導き出された、最適行動パターンの具現化。つまり——」
蒼い複製体たちが無言で剣を構える。
Iくん「この“月”の下、君は何度でも倒されることになる。」
極液が滴り落ち、月の演算核が高く脈動する。
カンタ王「……来い。」
Iくん「——行くぞ、“模写の王”!」
ドンッ!!!
衝突。
月の知性と、王の混沌が火花を散らした!