『トラカワ、総北高校に現る』
坂道たちはインターハイ後、秋の特訓合宿中だった。
山道の上り坂を駆ける総北メンバー。その途中、急に立ち漕ぎの田所がブレーキを握りしめた。
「おい坂道、今、見たか?」 「え…? えっ、なんか、いましたよね…道の端に…」
そこには、なぜかレーパン姿でもない、くたびれた半袖短パン姿の中年男が、ママチャリで坂を登っていた。
「ゼェ…ゼェ……はぁ〜しんど。やっぱチャリは原付の代わりにはならんだよ〜…」
額には汗、腹にはタオル。片手にはコンビニ袋。くせ毛に黒ぶち眼鏡、そしてもじゃっとした髭。どう見ても自転車競技に縁がなさそうなその男――トラカワだった。
「そこのにーちゃんたち!この坂、あとどんくらいあんの!?」 「え、あの……この先、10キロくらいですけど……」 「マジぃ!?おら静岡からパチンコ遠征しに来たっつうのに、チャリがこんな地獄とは思わんかったわ!」
手でタオルをあおぎながら、完全に戦意喪失気味なトラカワ。
巻島が小さく首をかしげる。「……何者?」
荒北がすっと横に並び、トラカワのママチャリをまじまじと見た。「そのチャリ、クランク片方曲がってんぞ。てか、それで山登ろうとしたのか?」
「えっ、曲がってんの!?どおりで漕ぎづらいと思った!」
坂道が少し心配そうに寄ってくる。「あの……どこまで行くんですか?」
「山越えて隣町の“サクラ会館”までな。1パチ甘デジの日なんよ。相性良くてさ〜、負けて帰ったことねぇ!」
「でもこのままだと、日が暮れちゃいますよ?」
「うぉぉぉぉいマジかよ!!おらの勝ち確タイムが!!」
その時、鳴子がニヤリと笑った。
「おもろいやん。ほな、俺らがひっぱったるで。ゴール、教えたるさかいな!」
「えぇ!?マジで!?」と目を輝かせるトラカワ。
坂道が言った。「じゃあ、ゴールは“お風呂屋さんの向かいにあるホール”ですね!」
「そ!それそれ!!“女湯から出たあとでも打てる店!”がキャッチコピーのとこ!」
「クセすっご!」
こうして、“トラカワさんをホールまで送り届ける”という謎の特訓が始まった。
登坂のスピード練習をする坂道の後ろに、トラカワが必死についてくる。
「はえぇぇ!!坂道くん待ってぇぇ!!」
「じゃあ、今度はケイデンス練習ねー!」
「ケイデンスってなんや!速く漕ぐってことか!こちとら人生で一番真剣にペダル回しとるぞ!」
トラカワは息を切らしながら、必死に登る。時折、荷物の中からモナカアイスを取り出して食べながら。
「ああっ!アイスの袋捨てちゃだめですよ!」
「わかっとるっ!ほら、ちゃんとこのへんの草むらに……」
「ダメですー!!」
結局、みんなでトラカワをホールまで送り届けたのは夕暮れどき。
「サンキューな、にーちゃんたち……おら、今日たぶん勝てる気がする!」
「負けても後悔すんなよ!」
「へっ、俺は“負ける準備”だけは一人前にできとるもんでな!」
そして、ママチャリのスタンドを立て、片手をひらりと振りながら、ホールに入っていった。
――翌日。
坂道たちの練習中に、トラカワの姿はなかった。
ただ、田所のスマホには1通のメッセージが届いていた。
「+4,600発 勝ったわ。おら、チャリで山越えれるくらいなら何でもできる気がする」
田所は鼻で笑った。
「クズだけど、根性はあんのかもな…」
そして誰かがぽつりと言った。
「また会える気がするよね。…あの人」
───
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